仕組みを知る

海底ケーブルの仕組み|光と電気で海を渡る通信の道

海底ケーブルは、光ファイバーでデータを運び、陸上から送る電力で海中の中継器を動かす通信システムです。陸揚げ局、断面、増幅、浅海と深海の守り方、切断時の考え方を見通せる形にします。

海底ケーブルの仕組み|光と電気で海を渡る通信の道

30秒でわかる答え

海底ケーブルの仕組みは、陸上の端局から光信号を送り、海底の光ファイバーで運び、長距離では陸から給電された光中継器で弱くなった光を増幅し、反対岸の端局に渡す流れです。ケーブルの外側は、海域に応じた被覆や鋼線で守られ、必要な場所では海底へ埋められます。

TERM PRIMER

先に知っておく言葉

海底ケーブル
国と国のインターネット通信を海の底でつなぐ大きなケーブルです。
陸揚げ局
海底ケーブルが陸へ上がる場所にあり、国内のネットワークへつなぐ施設です。
光ファイバー
光の信号で大量のデータを遠くまで運ぶ細いケーブルです。
国際通信
国や地域をまたいでデータをやり取りする通信です。
レイテンシ
データが届くまでなどにかかる遅延時間です。片道・往復など、測る区間を分けて考えます。

海底ケーブルの仕組みを30秒で見る

海底ケーブルは、海中の一本の線だけではなく、陸と海をまたぐシステムです。代表的な中継器付きシステムを、五つの場所に分けます。

段階主な設備何をしている?
1. 陸上の端局光伝送装置、給電装置、監視装置陸上ネットワークと接続し、光信号を送り、中継器へ電力を供給する
2. 陸揚げ区間陸上ケーブル、海岸の接続部端局から海岸を通り、海中区間へつなぐ
3. 海底ケーブル光ファイバー、給電用の導体、保護層光信号と、中継器を動かす電力を別の役割で運ぶ
4. 海中の設備光中継器、必要に応じて分岐装置弱くなった光を増幅し、設計によって経路を枝分かれさせる
5. 反対岸の端局受信・伝送装置海中から来た信号を陸上側の通信網に渡す

短い距離や設計条件によっては、海中の中継器を使わない「無中継」のシステムもあります。すべての海底ケーブルが同じ部品、同じ間隔、同じ断面を持つわけではありません。

また、海外サービスを使うたびに、いつも遠い国まで同じ海底ケーブルを通るとは限りません。近い配信拠点からデータが返る場合や、別の国際経路を通る場合があります。国内ネットワークから海外側までの全体は、国際通信の仕組みに分けています。

金曜日のピコルート・ラボ。イトが海外に住むいとこに送った短い音声メッセージは、古いテレビの世界地図を横切り、青い線と一緒に海へ沈みました。机の上には、髪の毛ほど細い光ファイバーの模型があります。

イト

海底ケーブルって、こんな細い光の道を何千キロも置くの? 途中で弱くなったり、船に引っかかったりしない?

マコト

壊れない魔法の線ではないよ。だから、運ぶ部分、支える部分、守る部分を分けて設計するんだ

意外なのは、海の下で「光」だけが働いているわけではないことです。データは光ファイバーを進み、中継器を動かす電力は金属の導体を通って陸から届きます。ここからは、この二つの流れと、海岸・浅い海・深い海で守り方が変わる理由を一つずつ見ます。

まず役割だけ知りたい場合は、インターネット海底ケーブルとはが入口です。本記事は、その中身と設備を担当します。物語から入りたい場合は、第36話「海底ケーブルはどう守られている?」へ進めます。

陸から海へ|陸揚げ点と陸揚げ局を分けて見る

海底ケーブルは、海岸の建物から突然始まる一本の線ではありません。

海中区間が陸へ上がる場所を、陸揚げ点やlanding pointと呼びます。そこから陸上の区間を通り、海底ケーブル用の伝送・給電・監視設備を置く端局へつながります。日本語では、この周辺の施設をまとめて「陸揚げ局」と呼ぶことがあります。

ITU-T G.972では、海岸の接続点と、通常その近くにあり端末設備を収めるterminal stationを分けて定義しています。両者は仕組み上の役割が違い、いつも同じ建物や同じ地点にあるとは限りません。

鉄道にたとえるなら、海岸は線路が地上へ出る接続点、端局は陸上線と海底線をつなぐ乗換駅です。税関のように通信内容を一件ずつ検査する場所、という意味ではありません。

ユイとピコが、陸上ネットワークから陸揚げ局を経て海底ケーブルへ続く模型を確認している
陸上の端局、海岸の接続部、海中区間を一枚にした説明用模型です。実際の距離や建物配置はケーブルごとに異なります。

端局では、光信号を送受信する装置だけでなく、海中設備へ電力を送る給電装置や、状態を見守る監視装置も使われます。海の道は、陸の設備があって初めて動き続けます。

ケーブルの断面で、光と電気は何をする?

海底ケーブルの断面は、中心の光ファイバーだけを見ても分かりません。代表的な中継器付きケーブルでは、次の役割が重なっています。

部分主な役割誤解しやすい点
光ファイバーデータを光信号として運ぶ電気でデータを海の向こうまで流す部分ではない
ファイバーを囲む構造水の侵入や機械的な力から光ファイバーを守る材料や並びは製品・用途で異なる
金属の給電導体海中の光中継器などへ陸から電力を送る利用者の通信内容を運ぶ役目とは別
絶縁・外被給電導体を周囲の海水から絶縁し、内部を保護する一層だけで守っているわけではない
鋼線などの装甲主に外からの力が大きい区間を補強する全区間が同じ太さ、同じ装甲とは限らない
イトとマコトとピコが、光ファイバー、給電導体、保護層を分けた海底ケーブルの断面模型を見ている
断面を役割ごとに大きくした概念模型です。実際の芯数、材料、層の順序、太さを示す設計図ではありません。

ユイ

青い光がデータで、金属の道は中継器の電源。一本の中で、別の仕事が同時に走っているんですね

ピコ

そう。光を運ぶ道だけでなく、その道を長く働かせる電気と、海から守る外側までがシステムなんだ

光が細いガラスの中を進む基本は、光ファイバーの仕組みに集約しています。ここでは、光ファイバーが海中設備や保護構造と組み合わさる点に注目します。

ラボの模型で光ファイバーを「光の線路」に置き換えると、光の車両を走らせる線路、海中設備へ電力を届ける別の道、両方を包む外側の守りに分けて見えます。

海中の中継器は、光をどう支える?

光信号は、光ファイバーを長く進むほど弱くなります。長距離の中継器付きシステムでは、途中に置かれた光中継器が信号を増幅し、次の区間に渡します。

中継器を動かす電力は、端局の給電装置からケーブル内の導体を通して送られます。つまり、海中へコンセントを置くのではありません。陸から長い電気の道をつなぎ、海の中の増幅器を働かせます。給電の構成はシステムごとに異なり、両端から給電できる区間も、片端から給電する区間もあります。

ITU-T G.Sup41は、光中継器の増幅部や耐水圧・防食・給電を設計項目として扱っています。NECの海底ケーブルシステム技術資料でも、陸上の給電装置、中継器、監視設備を別の要素として示しています。

中継器を「海中のサーバー」と考えるのは正確ではありません。典型的な光増幅型は、動画やメッセージを保存して配り直すのではなく、弱くなった光信号を次に届く強さにします。システムによって中継器の方式や有無は違うため、共通の間隔や個数はここでは決めません。

分岐装置を持つシステムでは、幹線から複数の陸揚げ先へファイバーを振り分けることもあります。これは一つの海中システム内の枝分かれです。障害時に別の独立したケーブルへ通信を回す「経路の冗長化」とは分けて考えます。

浅い海と深い海で、守り方が違う

「深海は水圧が大きいから、いちばん太い装甲で固める」とは限りません。どこで何から守るかによって、ケーブルの種類と置き方が変わります。

場所主に考える条件代表的な備え
海岸・浅い海船のいかり、漁具、波、海底利用、人の活動強い装甲、埋設、ルート表示、関係者との情報共有
大陸棚から斜面漁業、地形、海底の動き、張力海底調査、区間に合う外装、埋設または海底面への敷設
深い海水圧、敷設時の張力、起伏、地震や海底地すべりなど深度に耐える構造、地形を避けたルート、比較的軽いケーブルの採用

すべてのケーブルを海底へ埋めるわけではありません。外から傷つけられる可能性が高い区間では埋め、深い海では海底面に置く設計が使われます。事前に海底を調べ、区間ごとにケーブル種類と保護方法を決めます。調査船とケーブル船の工程は、海底ケーブルはどうやって敷く?で詳しく追えます。

ICPCの2026年5月更新FAQでは、世界の通信用海底ケーブルで年150〜200件ほどの障害があり、約70〜80%は漁業や船のいかりなど偶発的な人の活動によるとしています。これは通信用ケーブルの世界集計であり、個別海域や海底電力ケーブルへそのまま当てはめる数字ではありません。

だから保護は、分厚い外装だけでは終わりません。安全なルートを選ぶ、必要な区間を埋める、海図や情報共有で接触を避ける、監視し、修理できる体制を持つ。壊れ得るものを、複数の方法で壊れにくくしています。

一本が切れても「世界全部」が止まるとは限らない

ここで、ケーブル一本の構造と、インターネット全体の経路を分けます。

  • 光ファイバー、給電導体、中継器、分岐装置は、一つの海底ケーブルシステムを動かす要素です。
  • 別の海底ケーブル、別の陸揚げ地点、陸上回線、空き容量は、ネットワーク全体の耐え方に関わります。
  • 障害時に別経路へ回せるかは、接続関係、契約、空き容量、影響範囲によって変わります。

ITUの設計ガイドは、可能な場合の経路多様性(route diversity)と、伝送を失ったときに保護経路へトラフィックを回す考え方を示しています。ただし、予備の道があれば無影響という意味ではありません。遠回りや混雑でレイテンシ(遅延)が増えたり、地域やサービスによって通信できなくなったりする場合があります。

一本切れたときの影響と迂回は、海底ケーブルが切れたらどうなる?が担当します。場所の特定、船での引き上げ、接続試験は、海底ケーブルの修理に分けています。本記事で持ち帰るのは、「中継器」と「予備経路」は別の層の仕組みだという点です。

注意点を確認|障害ニュースの五問ワーク

テレビに「海底ケーブル障害」と出ても、見出しだけで自宅の通信原因を決めないようにします。次の五つを順番に見ます。

  1. どのケーブルか: システム名、結ぶ地域、陸揚げ地点が書かれているか。
  2. どの区間か: 海中区間、陸上区間、端局のどこで問題が起きたのか。
  3. 何が止まったか: ケーブル自体の損傷か、給電・端末設備・保守作業か。
  4. 別経路へ回しているか: 迂回後の混雑や、影響を受ける地域・サービスは何か。
  5. 誰が確認した情報か: ケーブル運営者、通信事業者、政府機関などの発表か。

同じWi-Fi・同じサービスを使う他の端末は正常なのに、自宅の一台だけが遅いなら、海底ケーブルより端末に近い問題の方が先に疑われます。反対に、特定地域との国際通信や複数サービスへ同時に影響が出ているなら、事業者の障害情報を確認する意味が増します。

家でできる小さなワークとして、海底ケーブルのニュースを一つ選び、「ケーブル名」「結ぶ場所」「障害区間」「迂回」「情報源」の五欄だけをメモしてみてください。書かれていない欄を推測で埋めないことも、仕組みを知った人の判断です。日本の陸揚げ地点を地図で読む方法は、海底ケーブルは日本のどこに上がる?にまとめています。

確認クイズ

ニュースには「海底ケーブルで障害」とだけあり、ケーブル名、影響地域、運営者の発表がありません。この情報だけで、自宅のWi-Fiが遅い原因を海底ケーブルだと決められるでしょうか。

答えは、決められません。記事にない区間や影響範囲を推測せず、自宅に近い端末・Wi-Fiの確認と、事業者の一次情報を分けて見ます。

イト

光の道と、中継器を動かす電気の道は別なんだね

ユイ

はい。一本の外装の中でも、運んでいる役割を分けて読めます

海底ケーブルの仕組みでよくある五つの疑問

海底ケーブルの中を電気も流れますか?

中継器付きの通信用海底ケーブルでは、流れます。データは光ファイバーの光信号として運び、電力は金属の導体を通って海中の中継器などを動かします。無中継システムなど、設計によって構成は異なります。

海底ケーブルは全部、海底に埋めてありますか?

いいえ。船のいかりや漁具の影響を受けやすい区間では埋設することがありますが、深い海では海底面へ敷設する場合があります。地形、海の利用状況、修理性を調べて区間ごとに決めます。

中継器は動画やメッセージを保存していますか?

光増幅型の中継器は、コンテンツを保管するサーバーではありません。長距離で弱くなった光信号を増幅する設備です。中継方式には複数の型があり、すべてのシステムが同じ構成ではありません。

海底ケーブルはどれくらい太いですか?

一つの太さでは答えられません。光ファイバーの本数、給電構造、装甲の強さ、使う海域で変わります。浅い海向けの強い装甲と、深海向けの比較的軽い構造では外径も異なります。本文の断面画像は役割を示す概念図です。

一本切れたらインターネットは全部止まりますか?

いつも全部止まるとは限りません。別のケーブルへ迂回できる場合があります。一方で、予備経路の容量や接続状況によって遅延や停止が起きるため、「いつも無影響」とも言えません。

物語とつながる次の海の道

古いテレビの地図に、いとこからの返信が一つ灯りました。「おやすみ。明日また話そう」。イトは、光ファイバーの模型をさっきより慎重に台に戻します。

細いから弱いだけの道ではありません。弱くなる光を中継器が支え、海岸では装甲や埋設が守り、陸の端局から電力と監視が届く。障害が起きれば、別の道や修理する人の仕事が続きます。

「壊れないから届くんじゃない。壊れる場所を考えて、守り続けているから届くんだね」

イトの言葉に、マコトはうなずきました。海の向こうから返ってきた短い一文は、一本の魔法の線ではなく、役割の違う設備と、見えない場所で働く人たちを通ってきたのです。

仕組みを物語でたどるなら、第36話「海底ケーブルはどう守られている?」へ。

地図に両岸の入口を置いてみる

地図で日本と別の国を一本の線で結び、両端に陸揚げ局の印を置いてください。雲のように見えた国際通信に、触れられる道が見つかります。

LAB WHITEBOARD

自分の言葉で説明してみよう

「海底ケーブルを、陸上端局、光ファイバー、給電導体、光中継器、場所に応じた保護に分け、光信号が海を渡る流れを説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。