TERM PRIMER
先に知っておく言葉
イトは「海の底なんて直せるの?」と本気で驚いていました。ラボのホワイトボードに海の断面を描くと、水深の数字だけで手が止まります。ここでは、その驚きを工程に分けて区別して考えます。切れた線を直す話ではなく、探す話から始まるところが、この作業のいちばん面白い部分です。
故障へ備えて海の道を守る全体像は、第36話「海底ケーブルはどう守られている?」で先に見られます。
修理はどこから始まるのか
陸のケーブルなら、切れた場所は目で見つかります。海の底は、そうはいきません。
数千キロの線のうち、どこか一点が切れている。まず必要なのは、修理道具ではなく「場所の見当」です。ここを飛ばすと、船を出しても広い海を探し回ることになります。
修理の作業は、大きく分けると次の順番です。
故障を検知する

故障が起きたことを検知する
おおよその距離を割り出す

切れているおおよその距離を割り出す
ケーブル船が現場へ向かう

ケーブル船が現場の海域へ向かう
海底から引き上げる

海底からケーブルを引き上げる
傷んだ部分を除き、接続する

傷んだ部分を切り離し、接続し直す
通信が通るか試験する

試験をして、通信が通ることを確かめる
海底へ戻す

海底に戻し、元の位置に沈める
工程の数だけ見ると単純ですが、1つずつに海の条件が絡みます。
切れた場所を海の上から探す
ケーブルの中を通っているのは光です。光は、線の途中に切れ目や傷があると、そこで一部が跳ね返って戻ってきます。
送った光が戻ってくるまでの時間がわかれば、そこまでの距離を割り出せます。片道の時間ではなく、行って帰る時間から逆算する考え方です。
たとえでいうと、暗いトンネルに向かって声を出し、こだまが返るまでの時間で壁までの距離を当てるのに似ています。ただし実際には、音ではなく光の跳ね返りを測る専用の装置が使われ、線の中の状態を距離ごとに読み取ります。光そのものの進み方は光ファイバーの仕組みで確認できます。
この段階でわかるのは、あくまで「線の何キロ地点あたり」という距離です。海図の上でどこかを絞り込むところまでは進みますが、船が着いてから細かく探す作業も残ります。
イト
光が戻ってくる時間で、切れたところがわかるってこと?
ピコ
半分正解。戻るまでの時間から、そこまでの距離を割り出すんだよ
釣り糸を引き上げるたとえ
この記事のたとえは、切れた釣り糸です。
海に垂らした糸が途中で切れたとします。直すには、まず切れた場所の見当をつけ、それから糸を船の上まで手繰り寄せて、結び直して、また海に戻す。糸は水の中にあるので、その場で結ぶことはできません。
海底ケーブルも同じ考え方です。海の中で作業するのではなく、船の上という作業場まで持ち上げてきます。
ただし実際には、釣り糸のように片方だけ引き上げるとは限りません。切れた両端をそれぞれ探して引き上げたり、深い場所では途中で切ってから引き上げたりする方法が使われる場合があります。海の深さ、ケーブルの太さ、傷み方によって、やり方は変わります。
ケーブル船が現場へ向かう流れ
修理には、専用の設備を積んだケーブル船が使われます。予備のケーブルや、接続用の装置、引き上げるための道具を積んだ船です。
ただ、船はいつも近くに待っているわけではありません。ここが時間のかかる理由の1つです。
- 船が別の海域で作業していることがある
- 現場までの航行に日数がかかることがある
- 作業する海域で許可の手続きが要ることがある
- 波が高い日は作業を始められないことがある
イトは「近くの港からすぐ出ればいいのに」と言いました。マコトは少し考えてから、「救急車と違って、海の上は道が広すぎるんだよ」と答えました。
引き上げて結び直し、また沈める
船が現場に着くと、海底のケーブルを探して引っかけ、ゆっくり引き上げます。深いところから持ち上げるので、この作業だけでも時間がかかります。
甲板に上がってきたら、傷んだ部分を切り離します。そこへ予備のケーブルをつなぎ、中の光ファイバーを1本ずつ接続し直します。髪の毛ほどの細さの線を、光が通るようにそろえてつなぐ作業です。
つないだあとは、通信が通るかを試験します。問題がなければ、余った長さをたるませながら海底に戻し、元の場所に沈めます。
ここで少し不思議に思えるのが、線が長くなることです。切れた両端を船の上まで持ち上げれば、その分の長さが海の上に出てきます。つなぎ直して海へ返すと、元より長い線が同じ区間に収まることになります。そのため、修理した場所には線がたるんだ部分が残る形になります。
イトは「毎回つなぎ足したら、修理できる回数は決まっているの?」と聞きました。マコトは「回数だけでは決められないね。接続部や残ったケーブルの状態、予備長、損傷場所を専門家が確かめる話だ」と答えました。単純な固定回数を置かず、個別の工事条件へ戻すのが正確です。
| 工程 | 作業の場所 | 主に決まるもの |
|---|---|---|
| 距離の割り出し | 陸の設備 | どの海域へ向かうか |
| 船の航行 | 海上 | 何日で現場に着くか |
| 引き上げ | 船の上 | 水深と天候の影響 |
| 接続 | 船の上 | 通信が通るかどうか |
| 再敷設 | 海底 | 元の状態に戻せるか |
時間が読みにくい理由と注意点
「あと何日で直る」と言い切りにくいのは、工程のどこにも待ちが入り得るからです。
- 天候が崩れると、船を出せない・作業できない日が続く場合がある
- 現場の水深や海底の地形によって、引き上げの手間が変わる場合がある
- 必要な部材や予備ケーブルの調達に時間がかかる場合がある
- 海域によっては、作業の許可や調整が要る場合がある
こうした条件が重なると、復旧まで数週間かかる場合があると言われます。逆に、条件がそろえば早く終わることもあります。ニュースで日数の見込みが出たときは、それが確定ではなく見込みであると読むのが安全です。
なお、修理を待つあいだも通信が全部止まっているとは限りません。その仕組みは海底ケーブルが切れたらどうなる?で確認できます。
工程を並べ替えるワーク
次の5つを、実際の順番に並べ替えてみてください。紙でもメモアプリでもかまいません。
- ア: 傷んだ部分を切り離して接続し直す
- イ: 光の跳ね返りで、切れたおおよその距離を割り出す
- ウ: ケーブルを海底に戻して沈める
- エ: ケーブル船が現場の海域へ向かう
- オ: 海底からケーブルを引き上げる
答え: イ → エ → オ → ア → ウ
並べ替えてみると、いちばん最初が「探す」であることが体に残ります。海の底の作業というと引き上げの絵が浮かびますが、その前に陸の設備で距離を当てる段階があります。ここを飛ばせないのが、この工事の性格です。
イト
海底ケーブルの修理って、どうやるの?人が海の底までもぐるの?
マコト
もぐるんじゃなくて、船の上まで引き上げるらしいよ。私も詳しくは知らないな
ピコ
その前にやることがある。どこで切れたかを、海の上から当てるんだ
画面のむこう側は、光の粒が飛び交う静かな世界に見えます。でもその線が切れたとき、動くのは船です。波の高い日には待ち、晴れた日に引き上げる。インターネットは、天気を気にしながら支えられています。
線が担う全体の役割は海底ケーブルとはで確かめ、故障地点の特定から再接続までを一本の作業線にしてみてください。
ミニクイズで修理の順番を確認
Q1. 海底ケーブルの修理は、どこから始まりますか?
A. 切れたおおよその場所を割り出すところから始まります。光の跳ね返りが戻る時間から距離を求める考え方が使われます。
Q2. 修理はどこで行いますか?
A. 海の中ではなく、引き上げたケーブルを船の上まで持ち上げて行います。
Q3. 復旧までの日数を言い切りにくいのはなぜですか?
A. 天候、海域の条件、船の位置、部材の調達などが重なるためです。数週間かかる場合があると言われますが、条件によって変わります。
LAB WHITEBOARD
自分の言葉で説明してみよう
「海底ケーブルの修理が、故障箇所の特定・船の到着・引き上げ・接続・再敷設という順番で進むことを説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。



