TERM PRIMER
先に知っておく言葉
海底ケーブルの敷設は、先に海底の地形を調べてから、船内に巻いて積んだケーブルを、船から海底へ少しずつ送り出す工事です。
ピコがイトを連れてきたのは、陸揚げ局の窓辺でした。水平線の手前に、動いているのか止まっているのかわからない船が1隻。敷設船は、海底地形とケーブルの送り出し量に合わせて慎重に進みます。ここでは、その工事の順番を一つずつ確かめます。
海と陸の線が出会う入口は、第34話「海外のサーバーへ行く道はどこ?」で先に絵として見られます。
船が糸を垂らすように敷く流れ
工事の主な仕事を7つの図で見てみましょう。ここでは、先に岸側を陸へ引き込み、沖へ敷き進める例を使います。区間ごとの施工順や接続場所は計画によって変わります。
海底の地形を調べる

海底の起伏や地質を調べ、通す道筋を検討します。
ケーブルを船に積む

工場で作ったケーブルを、船内のケーブルタンクへ順に巻いて積み込みます。
岸側のケーブルを陸へ上げる

ここでは、先に一方の岸へケーブルを引き込む工事の例を見ます。浮きで支えてから海底へ沈めます。
沖へ向かって送り出す

船の速さと送り出す量を合わせ、沖へ向かって海底の地形に沿わせます。
浅い海でケーブルを守る

いかりや漁具などの影響を受ける区間では、海底に埋める場合があります。敷設と同時に行う方法もあります。
反対側の区間とつなぐ

反対側で先に敷いた区間などと接続し、通信の道をつなぎます。
つながりを試験する

光信号や給電系統などを試験し、設計どおりにつながっているかを確かめます。
岸側の先行陸揚げ、沖への敷設、別区間との接続の関係は、KDDIケーブルシップの技術紹介でも確認できます。
ラボのホワイトボードに描くと、線を引くだけの絵になります。でも実際には、長い航路を海底調査の結果と照らしながら進める工事です。ケーブルの中身そのものは海底ケーブルの仕組みで確認できます。
イトが最初に驚いたのは、船の速さでした。敷設中の船は、走るのではなく、進みます。速く進めば、ケーブルは海底に届く前に引っぱられ、たるみが足りなくなります。海底の凸凹に沿わせるには、少しだけ余らせながら落とす必要があります。だから、船の速さは糸の落ちる速さに合わせて決まります。
ケーブルは、船内の大きなケーブルタンクにとぐろ状に積まれ、端から順に送り出されます。全区間をどの船でどう分担し、どこで接続するかは、航路の長さと船の積載量を含む工事計画で決まります。
どこに敷くかを先に調べる理由
イトは「まっすぐ引けばいいじゃん」と言いました。地図の上ではそう見えます。
けれど海の底は平らではありません。谷があり、山があり、崖のように急な場所もあります。地震が起きやすい海域や、船の行き来が多くていかりが落ちる場所もあります。
そのため、敷設の前に海底の様子を調べる作業が入ります。調べてわかることの例です。
- 水深がどこでどのくらい変わるか
- 海底が砂か、岩か、やわらかい泥か
- 急な斜面や崖のような地形がないか
- 漁業や航路で使われている海域かどうか
たとえでいうと、庭にホースを通す前に、石やくぼみを見ておくようなものです。ただし実際には、庭より広く、目で見ることができません。船から音を出して海底の形を測るような方法が使われます。
こうして決めた道筋は、いちばん短い線とは限りません。少し遠回りでも、傷みにくい場所を選ぶことがあります。
浅い海は埋める、深い海は置く
同じ1本のケーブルでも、場所によって置き方が変わります。
浅い海は、船の通り道でもあり、漁の場所でもあります。いかりや漁具がケーブルに当たる可能性があるので、海底を掘って埋める作業が行われる場合があります。
深い海は事情が違います。人の道具が届きにくく、水圧は高くても、当たるものが少ない。そのため、海底に置く形になる場合があります。
| 場所 | 主な心配ごと | 置き方の例 |
|---|---|---|
| 岸に近い浅い海 | いかり・漁具・波 | 海底に埋める場合がある |
| 中くらいの深さ | 地形の変化 | 地形に沿って置く |
| 深い海 | 水圧・引き上げにくさ | 海底に置く場合がある |
深さによって守り方を変えるのは、危ないところだけ手をかける考え方です。全部を同じように埋めれば安心、とはなりません。工事の手間も費用も、そのぶん増えるからです。
イト
浅いところの方が安全そうなのに、わざわざ埋めるんだ
ピコ
浅いところは人が近いからね。深い海より、人のいる海の方が危ないんだ
陸揚げ局につないで一本になる
海の区間と陸側の設備がつながって、通信の道になります。ただし、沖に全部敷いてから両端を陸へ上げる、という順番に決まっているわけではありません。
たとえば先に一方の岸へケーブルを引き込み、そこから沖へ敷き進め、反対側で先に敷いた区間と接続する方法があります。浜や海底を通る部分と陸揚げ局の設備を結ぶことで、国内のネットワークへ道が続きます。海の工事と陸の工事をつなぐ場所です。
つないだあとは、光信号や給電系統などが設計どおり端から端まで働くかを試験します。ここで問題が見つかれば、運用開始前に手直しします。
イトは窓辺で「あの船、ずっと同じところにいる気がする」とつぶやきました。ピコは「進んでるよ。ただ、1日で進む距離が海の広さに比べて小さいだけ」と答えました。
岸の近くでは、船のいかりや漁具などが触れる可能性も考えて、ケーブルの守り方を決めます。浅い場所だから工事が簡単、と深さだけで判断はできません。
イトは「深いところだけ気をつければいいと思ってた」と、海岸から沖までを指でたどりました。岸の近くにも、深い海にも、それぞれ確かめる条件があります。
誤解しやすい点と、かかる年月
海底ケーブルの工事で誤解されやすいのは、「船を出せば数日で終わる」というイメージです。
実際には、敷く前の段階が長くなります。どこを通すかの検討、海域の調査、関係する国や地域との調整、ケーブルの製造、船の手配。海に船が浮かぶ前に、机の上での作業が積み重なります。
- 通す海域の検討と調査に時間がかかる場合がある
- 複数の国や地域が関わると、調整に時間がかかる場合がある
- ケーブルそのものを作るのにも期間が要る
- 敷設中も天候で作業が止まる場合がある
こうした事情から、計画から運用開始まで年単位になる場合があると言われています。「通信が足りないから来月引こう」とはいかない工事です。
4コマで描くワーク
紙を4つに区切って、敷設の流れを描いてみてください。絵は下手でかまいません。線と丸で十分です。
- 1コマ目 — 海の断面を描き、海底の凸凹を描く。調べている船を上に描く
- 2コマ目 — 岸の建物へケーブルを引き込む様子を描く。沖の船との間に、ケーブルを支える浮きを描く
- 3コマ目 — 船からケーブルを送り出す様子を描く。岸に近い区間では埋める場合があり、沖では海底の起伏に沿って置く
- 4コマ目 — 別の区間との接続と、つながりを確かめる試験を描く。全体で両岸の設備につながることを示す
描き終えたら、1コマ目を指さして「なぜ最初にこれをやるのか」を声に出して言ってみてください。「海の底が平らじゃないから」と言えたら、この記事の内容は自分の言葉になっています。
ピコ
窓の外、沖に船が見えるだろう。あれが海底ケーブルを敷いている最中の景色だよ
イト
え、ただ浮かんでるだけに見えるけど……あの下に線を落としてるの?
敷設の流れから進む記事
海へ線を置く工事がつかめたら、次はその線が陸のどこへ上がるのか、そして切れたときにどう直すのかを見ると、海の道の一生が一周します。
- 海底ケーブルの仕組み: 敷かれた線の中身と守り方を確認します。
- 光ファイバーの仕組み: 線の中を進む光を見ます。
- 海底ケーブルは日本のどこに上がる?: 陸揚げ局の場所と理由を追います。
- 海底ケーブルの修理はどうやる?: 敷いた線が切れたときの作業を見ます。
画面のむこう側の道は、調査した航路に沿って敷設船が慎重に送り出した線です。窓の外の船が止まって見えるのは、ケーブルを海底へ安全に置く速さで進んでいるからでした。イトはしばらく、船から目を離しませんでした。
敷いた線が国際通信で何を担うかは海底ケーブルとはの地図に戻し、計画、調査、敷設、運用を四つの箱にして並べてください。
ミニクイズで敷設の順番を確認
Q1. 海底ケーブルの敷設で、最初に行うのは何ですか?
A. どの海域を通すかを決め、海底の地形や条件を調べることです。
Q2. 浅い海と深い海で、置き方が変わるのはなぜですか?
A. 浅い海はいかりや漁具が当たる可能性があるため、埋める作業が行われる場合があります。深い海では海底に置く場合があります。
Q3. 海底ケーブルは、船を出せばすぐ完成しますか?
A. いいえ。調査、調整、製造などが先にあり、計画から運用開始まで年単位になる場合があると言われています。
LAB WHITEBOARD
自分の言葉で説明してみよう
「海底ケーブルの敷設が、事前調査・船からの敷設・浅海での埋設・陸揚げ局への接続という流れで進むことを説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。




