TERM PRIMER
先に知っておく言葉
北海道苫小牧市と福岡県糸島市でも新しい陸揚げ拠点の計画が進められており、一か所へ集中させない方向が示されています。
マコトがラボのホワイトボードに日本地図を描きました。うまくはありません。でも海岸線だけはていねいに引きます。ユイがペンで東京のあたりを指すと、マコトは「惜しい。でも、線が上がるのは海のそば」と言いました。ここでは、その場所の意味を順に見ていきます。
海から陸へ入る入口の情景は、第34話「海外のサーバーへ行く道はどこ?」で先に見ることができます。
陸揚げ局はどこにあるのか
陸揚げ局は、海底ケーブルが海から陸へ上がってくる場所にある施設です。ランディングステーションと呼ばれることもあります。
条件は、まず海のそばであること。線は海から来るので、内陸には上がれません。そして、海岸から施設まで線を引き込める場所であること。この2つだけで、置ける場所はかなり絞られます。
日本の場合、島国なので海岸線はたくさんあります。ただし、どこでもよいわけではありません。
- 波や地形が、線を引き込むのに向いているか
- 船の行き来や漁業と、折り合いがつくか
- 陸側で、国内のネットワークへつなげられるか
- 電源や設備を置く場所が確保できるか
こうした条件を満たす場所が、海岸沿いに点在します。場所を丸暗記する必要はありませんが、「千葉・三重の既存例と、北海道・福岡の新設計画」の位置関係を見ると、分散の意味を地図で確かめられます。
ユイは「思ったより地味な条件なんですね」と言いました。マコトはうなずきました。最先端の通信を支える場所を選ぶ基準が、波の当たり方や海底の砂であること。この落差が、海底ケーブルの面白いところです。技術の話に見えて、半分は地理の話をしています。
家の玄関にたとえるとどうなるか
マコトが出したたとえは、家の玄関でした。
陸揚げ局は、日本という家の玄関口です。外から来た荷物は、壁を通り抜けて部屋に届いたりしません。玄関を通ります。海外から来る通信も同じで、陸揚げ局という玄関を通って国内へ入ります。
そして、玄関が1つしかない家は不便です。玄関の前で工事があれば、その日は出入りできません。だから、玄関は複数あった方がいい。
ただし実際には、家の玄関のように「ここが正面」と決まっているわけではありません。どの陸揚げ局を通るかは、相手の場所、契約している事業者、そのときの経路によって変わります。通信は玄関を選んで入ってくる、と考える方が近いです。
たとえは玄関の数を考える入口として使い、線の中身の話は海底ケーブルの仕組みに戻して見ると、混ざりません。
玄関を複数に分ける理由
なぜ、わざわざ離れた場所に分けるのか。理由は、同じ災害や同じ事故で全部が使えなくなるのを避けるためです。
1か所に集めれば、管理は楽になります。でも、その1か所が使えなくなったとき、代わりがありません。
| 分け方 | 期待できること |
|---|---|
| 離れた海岸や海域に分ける | 一つの地域の障害が全経路へ同時に及びにくくなる |
| 離れた地域に分ける | 地震や台風の影響が同時に及びにくい |
| 複数のケーブルを別ルートで通す | 1本切れても、別の道へ回せる場合がある |
ユイ
玄関が離れているほど安心……でも、離れすぎると遠回りになりませんか
マコト
いいところに気づいたね。安全と近さは、いつも少しだけ引っぱり合ってる
ユイが言ったとおりです。分散させれば安全側に寄りますが、都市から遠い玄関を使えば、そのぶん道は長くなります。どちらかに振り切るのではなく、両方を持っておく設計になっています。
陸揚げ局から国内へつながる流れ
陸揚げ局に上がった通信は、そこで終わりません。国内のネットワークへ入り、目的地へ向かいます。
- 海底ケーブルが海岸沿いの陸揚げ局に上がる
- 陸揚げ局の設備で、陸上の通信網へつながる
- 国内の大きなネットワークを通る
- 都市部のデータセンターやサーバーに届く
- 利用者の回線を通って、手元の端末に届く
この流れの中で、陸揚げ局は入口の役割だけを持っています。データを貯めておく場所ではありません。貯める場所はデータセンターで、そちらはサーバーはどこにある?で確認できます。
ユイは「玄関と部屋を分けて考えるんですね」とノートに書きました。玄関にソファは置きません。荷物も積み上げません。通り抜けるための場所だからです。陸揚げ局も同じで、海からの線を受けて陸の設備に渡す、その一点に役割を絞っています。
そして、玄関から部屋までの廊下にあたるのが国内のネットワークです。この廊下は、海底ケーブルとは別に、陸の上をぐるりと張りめぐらされています。海の道と陸の道は、陸揚げ局でだけ出会います。
都市から少し離れる理由と誤解
「東京都 海底ケーブル」と調べる人は多いはずです。ユイもそうでした。大きな会社もサービスも都市にあるのだから、線も都市に来ているだろう、と考えるのは自然です。
ここでよくある誤解を3つ順に見ていきます。
- 誤解1: 必ず大都市の港に上がる — 陸揚げ局は、海底地形、船舶や漁業、陸上網、設備用地など複数条件から選ばれます
- 誤解2: 陸揚げ局にデータがある — 陸揚げ局は通り道で、Webサイトのデータが置いてあるわけではありません
- 誤解3: 都市から遠いだけで必ず遅い — 体感は陸揚げ局から先を含む全経路、混雑、相手先によって決まります
つまり、陸揚げ局と都市の直線距離だけで速さは決まりません。海を渡る距離に加え、国内外で実際に選ばれた経路と混雑を合わせて見ます。国際通信の全体像は国際通信の仕組みで見渡せます。
地図で確認する3つの視点ワーク
地図アプリを開いて、日本の海岸沿いをゆっくり眺めてみてください。そのとき、次の3つの視点を持ちます。
- 海の向き — その海岸は、どの方向の海に面しているか。海の先に何があるか
- 海岸の形 — 砂浜か、崖か。線を引き込めそうな地形か
- 内陸とのつながり — そこから都市へ向かう道や町並みがあるか
例として書き出すとこうなります。
- 海の向きは、太平洋側。線を伸ばせば北米の方向になる
- 海岸の形は、ゆるやかな砂浜。急な崖ではない
- 内陸とのつながりは、幹線道路が通っていて都市へ続く
この3点を意識して見ると、地図が地形の絵から通信の地図に変わります。答え合わせをする必要はありません。「ここは向いていそう」と考えられれば十分です。
マコト
海底ケーブルって、日本のどこに上がってると思う?地図で言うと
ユイ
東京……ですか?大きな会社もデータセンターも、そのあたりにありそうで
海から陸へ、地図をつなぐ
玄関の場所がつかめたら、次は玄関の先にある家の中と、玄関が使えなくなったときの話へ進むと、地図が立体になります。
ホワイトボードの日本地図には、海岸線に沿っていくつかの丸が増えました。ユイはノートに「玄関は複数」と書いて、少しだけ笑いました。東京だと思っていた場所は、地図の上でずいぶん内側にありました。
国際通信での役割を海底ケーブルとはへ戻って確認し、日本地図の丸から海外へ一本だけ線を伸ばしてみてください。
ミニクイズで陸揚げ局を確かめる
Q1. 海底ケーブルは日本のどこに上がりますか?
A. 海岸沿いにある陸揚げ局です。海から陸へ切り替わる場所で、必ずしも都市の中心にあるとは限りません。
Q2. 陸揚げ局を複数の場所に分けるのはなぜですか?
A. 同じ災害や障害でまとめて使えなくなるのを避けるためです。離れた海岸や異なる経路へ分散し、一つの障害点に頼らないようにします。
Q3. 陸揚げ局には、Webサイトのデータが置いてありますか?
A. いいえ。陸揚げ局は海と陸をつなぐ入口です。データはデータセンターのサーバーにあります。
LAB WHITEBOARD
自分の言葉で説明してみよう
「海底ケーブルが海岸沿いの陸揚げ局に上がることと、複数の場所へ分散させる理由を説明できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。




