第68話のbrowser工房で、イトは一つ前のframeを見ても更新処理を繰り返さなかった。
次のframeには、深い緑の「受信完了」が正しく描かれた。
ところが、その直後。
工房の外から受け取るはずの新しい時刻だけが、来なくなった。
local screen visible
Wi-Fi mark on
new response none
画面は見える。
Wi-Fiの扇形も明るい。
それでも、大画面の時刻は止まったままだ。
イトは端末の設定を開き、Wi-Fiのswitchへ指を置いた。
「いったん切って、つなぎ直せば戻るかも」
明るい印と、届かない返事
ラボの入口には、遠くの町にいる案内役とつなぐ小さな中継画面がある。
20秒後、見学者がそこへ集まる。新しいresponseが来なければ、遠くの案内役は画面へ現れない。
ユイは、端末の二つの記録を並べた。
Wi-Fi association active
outside response timeout
イト
Wi-Fiはつながってるって言ってるのに、返事は来ない。どっちかが間違ってるの?
ユイ
二つの記録は、同じ場所を見ていないのかもしれません
マコト
『つながる』の始点と終点を決めないと、反対の結果に見えるね
残り17秒。
イトは、Wi-Fiのswitchへ置いた指をまだ動かさなかった。
第68話で、見た目が古い一瞬だけを理由に処理を重ねそうになったことを思い出したからだ。
「今回も、全部を最初からやり直す前に、どこまで届いてるかを分けたい」
三つの入口
床から、三つの入口が開いた。
A:browserをreloadする
見えているpageを読み直す。けれど、local screenはすでに描けている。外から返事が来ない理由は分からない。
B:Wi-Fiをoff / onする
端末から近くの機器までをいったん切る。だが、いま明るいlocal linkまで失うことになる。
C:状態を保ち、近い境界から一つずつ確かめる
端末内、Wi-Fiの近い道、router、routerの外、名前案内、目的地を別の区間として置き、最初に届かなくなる場所を探す。
ピコは答えを選ばなかった。
大きな黒い板に、六つの空欄だけを作った。
screen | local link | router | outside | name | destination
残り13秒。
イトはAとBの入口を閉じた。
「C。いま生きているものを消さず、近いところから確かめる」
イトは、六つの空欄を自分の端末から順にたどり始めた。
最初の境界は、端末の中
一つ目は、browserが持っているlocal screenだ。
文字も画像も見える。buttonも押せる。第68話で追ったnew frameは、いまも画面に残っている。
local screen check 1 / 1
rendered frame current
browser reload 0
「端末の中で画面にするところまでは、生きてる」
イトは最初の空欄をcyanで塗った。
ここでreloadしても、確認済みの区間をもう一度通るだけだ。
Wi-Fiの印が見ている近い道
二つ目は、端末からラボのaccess pointまでの無線のlink。
このfixtureでは、Wi-Fiの接続記録とlocal addressが残っている。端末は、近くのWi-Fi機器との関係を失っていない。
イトは、Wi-Fiを切らずにlocal router専用の確認口へ一つだけprobeを送った。
青い小さな返事が、すぐ同じ道を戻ってくる。
Wi-Fi association active
local router probe reply 1 / 1
Wi-Fi reconnect 0
二つ目と三つ目の空欄がcyanになった。
イト
Wi-Fiの印はうそじゃなかった。端末から近くのrouterまでは、本当に届いてる
ユイ
でも、その印だけではrouterの先まで確認していません
マコト
近い橋を渡れたことと、遠い町まで道が続くことは別なんだ
Routerの先で、光が消えた
四つ目は、routerから外へ出る境界だ。
イトは、ラボ用の検査板にあるoutside probeを一回だけ送った。
返事はない。
router local side reply 1 / 1
router outside side reply 0 / 1
name check not run
destination check not run
イトは、そこで手を止めた。
外へ出る最初の境界を通れていないなら、まだ名前案内や遠くのserviceを犯人にする材料はない。
「『ネットが全部壊れた』じゃない。端末からrouterまでは生きてる。最初に暗くなるのは、routerの外側だ」
検査板の裏を見ると、local側のcyan cableはつながったまま、その先のouter connectorだけがsocketから外れていた。
イトは、Wi-Fiのswitchから完全に手を離した。
そして自分の手で、outer connectorを元のsocketへ差し込んだ。
外へ伸びる一本の道が、深い青に光った。

この画像でピコが照らしているのは、二つの区間の境界だ。connectorを見つけ、戻したのはイトだった。
Internetは、一枚の大きなWi-Fiではない
outer connectorの先に、地図が開いた。
ラボの小さなnetwork。
回線を運ぶnetwork。
遠くのserviceがいるnetwork。
それぞれのnetworkがrouterなどの境界でつながり、packetを次へ渡している。
Internetを networkのnetwork と呼ぶのは、一台の巨大な機械や一枚の世界Wi-Fiではなく、別々のnetworkがつながって通信する土台だからだ。
Wi-Fiは、その土台へ入る方法の一つとして、端末と近くの機器を無線で結べる。
しかし、Wi-Fiの接続表示が見ている範囲と、internet上の目的地までの全経路は同じではない。
device -- Wi-Fi --> local router -- outside paths --> remote network
この式の左側が明るくても、右側が暗いことはある。
二つの表示は矛盾していなかった。
名前と目的地は、そのあとに確かめる
outer connectorを戻したあと、イトは途中を飛ばさなかった。
同じ検査板で、残りの境界を一回ずつ確かめる。
router outside probe reply 1 / 1
name lookup fixture reply 1 / 1
Web destination response 1 / 1
ここで初めて、名前を目的地のaddressへ案内する区間と、その目的地からのresponseまで到達した。
もしouter pathが通るのに名前だけ解けなければ、次はnameの区間を見る。
名前まで通るのに一つの目的地だけ返さなければ、そのservice側を調べる。
大切なのは、どんな故障もこの順番で必ず直るということではない。
一つの「ネット」にまとめず、自分が何をどこからどこまで確かめたかを残すこと。
実際の端末やnetworkでは、使える確認方法や返事の仕方が違う。この工房のprobe数は、区間分けを練習するclosed fixtureの観測値だ。
Webは、Internetの上を走る一つの使い方
遠くの案内役から戻ったのは、Web画面で使うHTTPのresponseだった。
HTTPは、requestとresponseでnetwork上の情報をやり取りするapplication-levelの仕組みだ。
つまり、今回戻ったWebはinternetそのもの全部ではない。
Internetというつながりの上では、Web以外のapplicationも通信する。Webのpageが開かないことと、端末のあらゆるnetwork通信が止まったことも、同じ断定にはできない。
イトは、六つの空欄の上へ「Web」という小さな札を置いた。
札は地図全体を覆わず、目的地とのrequest / responseの上だけに載った。
「Webは大きな地図そのものじゃない。この地図を使う一つの仕事なんだ」
つなぎ直さなかった結果
残り3秒。
遠くの案内役が中継画面へ現れた。
見学者が入口へ集まり、案内が予定どおり始まる。
イトは、最初と最後の記録を重ねた。
browser reload 0
Wi-Fi reconnect 0
local router reply 1
outside before repair 0
outside after repair 1
name reply 1
Web response 1
unrelated reset 0
ユイ
生きていたlocal linkを消さず、最初に暗くなる境界だけを見つけられました
マコト
『Wi-Fiあり』と『internetへ届かない』が同時に本当だと、結果で説明できたね
イト
つながらないときは、全部をやり直す前に、どこからどこまで届いたかを近い順に分ける。今回はWi-Fiをつなぎ直す問題じゃなかった
この地図を、子どもへ一言で言える?
案内が終わると、小さな見学者がイトの袖を引いた。
「Internetって、あのWi-Fiのマークのこと?」
イトは答えようとして、黒い板を見た。
screen、local link、router、outside、name、destination。
六つの言葉を全部並べれば正確そうに聞こえる。でも、それでは質問した子の目が地図へ届く前に迷子になる。
イトは六つの札を外し、机の上へ空の道具箱を置いた。
「Wi-Fiは近くの道。Internetは、その先でたくさんの道がつながる……」
そこまで言って、手を止めた。
正しさを残したまま、もっと短くできるはずだ。
道具箱の中に、端末、道、住所、荷物、返事の五つの空き場所が光った。
次回、ピコルート第70話。
インターネットを子どもにどう説明する?

