テレビのアニメはどこから来る? / 第2話

第2話:イトは、最後の一枚を0と1にほどいた|データになるということ

ピコルート第2話。0と1しか通れない門の前で、イトは正体直前の映像札を守るか、ビットへほどくかを迫られる。文字・画像・音がデータになる意味を、失った原札と再構成された一枚から学びます。

データ0と1文字音と映像10分更新

門には、穴が二つしかなかった。

暗い穴。

光る穴。

イトが第1話から持ってきた映像札は、どちらにも入らない。

札には、仮面が外れる直前の一枚が残っている。

0と1の街の出口が閉じるまで、あと三分。

「このままじゃ、最後の一枚を連れていけない」

絵のままでは通れない門

門の向こうには、小さな荷物が走る道が見えた。

そこへ進めば、止まったアニメのデータがどう運ばれるかを追える。

けれど入口は、人が見て分かる絵も、文字も、音も受け取らない。

受け取るのは二つの状態だけだった。

0と1。

NISTの用語集では、ビット(bit)を、0か1の値を持つ二進数の一桁と説明している。

ピコは、暗い穴を0、光る穴を1として見せた。

これは論理上の二つの値を、街の灯りに置き換えた姿だ。現実の機器で0と1をどう実現するかは、回路や媒体によって異なる。

イト

でも、これは絵だよ。0でも1でもない

ピコ

絵の見た目をそのまま押し込むんじゃない。絵を数で表す規則が必要なんだ

ユイ

規則が違えば、同じ0と1でも別のものとして読まれますか

ピコ

そう。ビット列だけを見ても、文字か画像か、どんな順番かは決まらないよ

門の時計が、二分三十秒を示した。

0と1には、最初から意味がない

門の横に、同じビット列が三本表示された。

一本目の読取機は、文字らしい記号を出す。

二本目は、色の点を並べる。

三本目は、短い音を鳴らす。

入口の0と1は同じでも、読み方が違えば結果も違う。

必要なのは、少なくとも次の三つだった。

  1. 何の種類のデータか
  2. どの数を何に対応させるか
  3. どの順番で読むか

数と意味の対応や並べ方を決めることを、ここでは 符号化 と呼ぶ。

「0が文字で、1が音って意味じゃないんだ」

イトは暗い穴と光る穴を見比べた。

「0と1は、規則に使う材料なんだね」

文字は番号と表示を分ける

ユイがノートへ「あ」と書いた。

門の文字用地図には、文字と番号の対応が載っている。

Unicode標準では、それぞれの文字にコードポイントという数を割り当てる。UTF-8、UTF-16、UTF-32などの符号化形式は、その数をコード単位の列として表す方法だ。また、文字そのものと、画面に描かれる具体的な字形は分けて考える。

同じ「あ」という文字情報でも、フォントが変われば見た目は変わる。

逆に、見た目が似ていても別の文字として扱う場合がある。

「文字の姿と、文字を示す番号は同じじゃないんですね」

ユイはノートの「あ」と、門の数値札を線で結んだ。

画像は小さな位置と値へ分ける

次にピコは、イトの映像札へ細い格子を重ねた。

一枚の絵が、小さなピクセル(画素)の集まりとして区切られる。

それぞれの位置に、色を表す値がある。

画像の形式には、ピクセルの並び、色、透明度、圧縮などを読み戻すための規則がある。

たとえばW3CのPNG仕様では、色の種類ごとに使えるビット深度が決まり、ピクセルの値を走査線という横一列ごとに並べ、バイト列へ詰めていく。画像形式が、データの構造と読み方を細かく決めている例だ。

ただし、この街の映像札は、実在のPNGや動画形式をそのまま再現したものではない。

イトが最初の地図を理解できるように、ピクセル、色の値、順番だけを見える形にしている。

音も、画像と同じ規則では読めない

マコトが指を鳴らした。

乾いた音が、波の形になって空中へ残る。

音をデジタルデータとして扱うときは、時間に沿って測った値のほか、サンプルレート、ビット深度、チャンネル数、形式などが関わる。

画像のピクセル地図で、そのまま音を戻すことはできない。

文字、画像、音は、見える姿も測るものも異なる。

それでも、それぞれに合った規則で数値やビット列として表せば、コンピューターで保存し、処理し、運べる。

「ぜんぶ同じ形になるんじゃない」

イトが言った。

「違うものを、それぞれの規則でデータとして表せるんだ」

イトが選べる三つの道

門が閉じるまで、一分十二秒。

三枚の札が出た。

  1. 映像札を置いていく
  2. 色だけを送る
  3. 規則を決め、ビット列に変える

一つ目なら、元の映像札はそのまま残せる。けれどイトは持って先へ進めない。

二つ目なら、夕焼けの色だけは門を通せる。人物の輪郭と、仮面へ伸びる手は失われる。

三つ目なら、ピクセルの位置、色の値、順番を示す地図と一緒にビット列へ変えられる。反対側で戻せる可能性はあるが、イトの手にある一枚は読取機の中でほどかれ、戻ってこない。

イトは映像札を胸へ引き寄せた。

正体を見る直前で、自分から再生を止めた。

今度は、その最後の一枚まで消すことになる。

門の向こうで、荷物の道が暗くなり始めた。

イトは、元の映像札を読取機へ入れた

「規則を決めて、ビット列にする」

イトは、ピクセルの位置、色の値、読む順番を示す地図を選んだ。

地図を先に門へ通す。

それから、最後の映像札を両手で読取機へ入れた。

青い札が、端から細い光へほどける。

夕焼けが消えた。

主人公の輪郭が消えた。

仮面へ伸びる手も消えた。

残ったのは、暗い光と明るい光の長い列だけだった。

途中の列を見ても、イトにはもうアニメだと分からない。

イトが夕焼け色の最後の映像札を読取機へ入れ、札が0と1を表す暗青と水色の光列へほどけて細い門を通っている
人に見える最後の一枚を読取機へ入れ、ピクセルの値と順番を表すビット列として門へ通す。

同じ地図で、反対側から読む

ビット列が門を抜けた。

反対側の復号機は、先に届いた地図を開く。

何番目の値を、どのピクセルの、どの色として置くか。

同じ順番で、小さな点を並べ直す。

最初に夕焼けが戻った。

次に主人公の肩。

最後に、仮面へ伸びる手。

再構成された映像が、新しい札として空の受け皿へ収まった。

元の映像札そのものではない。

けれど、この地図で表したピクセルの情報は、門の反対側でも読み戻せた。

ユイ

0と1が絵を覚えていたのではなく、地図どおりに数を読み直したんですね

マコト

地図や順番が違えば、同じ列から同じ絵は戻らない

ピコ

だからデータには、値だけでなく、どう解釈するかという約束も大切なんだ

イト

ぼくの手にあった一枚はなくなった。でも、次へ運べる形にはできた

元の映像札のない手

門は、四人の後ろで閉じた。

イトの両手には、もう夕焼けの映像札がない。

反対側の受け皿に、再構成された一枚がある。

二つの間には、細いビット列の控えと、読み方を示す地図が残った。

ビット列だけなら、絵には見えない。

地図だけでも、絵は戻らない。

値、規則、順番がそろい、初めて同じ情報として読める。

その先では、長すぎるビット列を小さな箱へ分ける機械が動いていた。

一つの映像を、そのまま一個の荷物にはできないらしい。

イトは元の映像札がなくなった手を握り、再構成された一枚を見た。

「次は、この長い列をどう運ぶの?」

小さな箱が、宛先の違う道へ走り出した。

次回:小さな荷物はどうやって届く?

文字、画像、音は、それぞれの規則でデータとして表せる。

けれど、長いビット列をそのまま一本で運ぶとは限らない。

次回、ピコルート第3話。

小さな荷物はどうやって届く?

データの基本を図でも整理するなら、データとはへ進めます。

この物語を、解説で深める

第2話で生まれた疑問を、解説記事で少し深く見ていきます。物語で感じた不思議さを残したまま、言葉と仕組みを順番に整理しましょう。

データとは|文字・画像・音・動画をコンピューターが扱う形を読む