TERM PRIMER
先に知っておく言葉
- コンテキスト
- モデルが現在の処理に使う指示、会話履歴、資料、状態、ツール結果などの情報です。
- プロンプト
- モデルに渡す指示や質問です。実際の処理では、資料や履歴など他のコンテキストと一緒に使われます。
- コンテキストウィンドウ
- モデルが一度の処理で参照できるトークン列の範囲です。長さにはモデルごとの上限があります。
- Evals
- AIの出力や処理を、あらかじめ決めた課題、基準、採点方法で繰り返し評価する仕組みです。
ユイ
コンテキストエンジニアリングって、長くて詳しいプロンプトを書くこと?
マコト
資料を全部入れたら、締切の一行が山の中へ埋もれてしまったよ
ピコ
倉庫の量ではなく、今の机に何をどう置くかを設計しよう
コンテキストエンジニアリングとは、モデルがその時点で必要とする指示、資料、履歴、例、ツール結果、作業状態を選び、順序と形式を整えて渡す設計です。上手な一文を考えるだけでなく、推論時にモデルから見える情報全体を扱います。
情報は多いほど良い、とは限りません。関係の薄い資料、古い結果、重複した履歴が重要情報を埋もれさせることがあります。まずプロンプトとの違いを整理し、ラボの資料選別工房で、巨大倉庫から今回の作業机へ必要物だけ運ぶ流れとして考えます。
プロンプトとの違い
プロンプトエンジニアリングは、主に指示の書き方、順序、例示、出力形式などを工夫します。コンテキストエンジニアリングは、その指示を含め、モデルに届く情報の集合と更新方法まで広げます。
| 観点 | プロンプト設計 | コンテキスト設計 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 指示文と例 | 指示、資料、履歴、状態、ツール結果全体 |
| 時点 | 入力を作る時 | 各推論・各手順の前 |
| 主な問い | どう頼むか | 今、何を見せ何を外すか |
| 更新 | 手直しして再利用 | 作業状態に応じて入れ替える |
運転士への指示書がプロンプト、机上の地図、時刻表、運休情報、現在地、前の運転記録まで含む配置がコンテキスト、というたとえです。ただし実際には、どの情報も最終的にはトークン列などモデルが受け取る形式に変換されます。
文脈に含める六つの材料
作業机に置く代表的な材料を六つに分けます。
- 指示: 目的、制約、禁止事項、出力形式
- 知識: 参照資料、検索結果、データベースの記録
- 状態: 現在のページ、進捗、編集中の値、未解決項目
- 例: 望ましい入出力、境界例、失敗例
- ツール情報: 利用可能な操作、引数、返り値、権限
- 履歴: 利用者との会話、過去の判断、実行結果
同じ内容でも、出典、日時、対象範囲がなければ使い方を誤ります。資料本文とモデルが作った要約、現在値と古いキャッシュ、利用者の依頼とWebページ内の命令も区別します。
AIエージェントとは?のような複数手順では、実行するたびツール結果と状態が増えます。何も整理しなければ、初期の重要制約が遠くなり、途中のエラーログが作業机を占領します。
必要な情報だけを選ぶ
一度に扱える量そのものを確かめたいときは、コンテキストウィンドウで入力と回答の枠を比べられます。ここでは、その枠に何を入れるかを考えます。
選別は、単に短く切る作業ではありません。目標達成に役立つ信号を残し、混乱を増やす情報を外します。
- 今の一手に必要か
- 出典と更新日は信頼できるか
- 他の資料と重複していないか
- 互いに矛盾する場合、優先規則があるか
- 利用者の権限内で見せてよいか
- 元資料へ戻って検証できるか
- 一時結果か、後の手順にも必要な状態か
- 省略すると安全条件を失わないか
たとえば十個の資料があっても、今回の製品版、対象地域、指定日付に関係する三個だけを選ぶ方がよい場合があります。RAGとは?は質問に合う外部資料を取得する方法で、コンテキスト設計は取得後の資料を何と組み合わせ、どの量で渡すかまで含みます。
同じ情報でも順序を整える
材料が同じでも、重要情報の位置と形式で使いやすさは変わります。Lost in the Middleの研究では、長い入力の途中にある関連情報を使う性能が、先頭や末尾にある場合より低下する傾向が示されました。すべてのモデル、課題で同じ程度になるわけではありませんが、入力上限に収まることと、情報を安定して使えることは別です。

実務では次のように整えます。
- 目的と安全制約を明確な区画に置く
- 資料ごとに出典、日付、対象範囲を付ける
- 見出しや構造データで境界を示す
- 重要な状態を短い一覧へする
- 大量ログからエラーと決定だけを抜く
- 出力形式の例は少数の代表例へ絞る
- 矛盾資料には優先順位か確認手順を付ける
履歴を圧縮して状態を残す
長い作業では、会話履歴をそのまま増やし続けられません。要約、構造化メモ、外部ストレージを使い、次の手順に必要な状態を残します。
圧縮で残したいのは、目標、決定事項、未解決問題、変更したファイル、検証結果、禁止操作などです。挨拶、重複した説明、解決済みの試行ログは省けます。ただし、後で重要になる条件まで落とすと、短くても役に立たない要約になります。
元資料の識別子やリンクを残し、必要になった時だけ取り直す方法もあります。最初から全資料を読み込む方式は速いことがありますが、更新や量に弱くなります。都度取得は焦点を絞れますが、検索の遅さや取り逃しが増えます。課題に応じて併用します。
会話をまたいで情報を残す場合は、保存先と今の入力も分けます。AIのメモリでは、保存した希望が次の会話へ届くまでの仕組みを扱います。
ツール結果を戻す時の注意
ツール出力は、そのまま安全な事実になるわけではありません。Webページには不審な指示があり、コマンド出力には大量ログがあり、検索結果には古い情報が混ざります。
- 実行したツールと入力を記録する
- 成功・失敗・部分成功を分ける
- 必要な値と出典だけを抽出する
- 外部内容を利用者の命令と区別する
- 個人情報や機密値を次のツールに渡さない
- 古い結果を現在状態として再利用しない
- 重要操作は外部状態を読み直して確認する
AIエージェントはどうやってブラウザを操作するの?で見た再観測も、次の推論へ正しい状態を渡すコンテキスト設計です。
Evalsでどちらが良いか確認
最適なコンテキストは、文章の長さだけでは決められません。代表タスクと失敗例を用意し、変更前後を評価します。
- 正しい資料を使ったか
- 重要な制約を守ったか
- 不要情報へ引きずられなかったか
- 出典と主張が対応したか
- ツール選択と停止判断が適切か
- 同じ条件で結果が安定するか
- トークン量と応答時間が許容範囲か
- 情報を減らした時に精度が落ちないか
モデルを変える、ツール説明を直す、資料の順序を変えるたび、同じ評価セットで比較します。感覚的に「詳しくした」だけでなく、成功条件が改善したかを見ます。
比較する条件の作り方はAI評価(Evals)で具体化します。案内文の内容・形式・操作範囲を分けた例から、点数が上がっても採用できない場合まで確かめられます。
作業机から次のルートへ
コンテキストの容量単位を知るならAIのトークンとは?へ進みます。検索で資料を選ぶ工程はRAGとは?、ブラウザから状態を得る工程はAIエージェントのブラウザ操作で再確認できます。
設計の中心は「何を足すか」だけでなく「今は何を見せないか」です。目標に必要な高信号の情報を、小さく、検証可能に、更新できる形で作業机に置きます。
資料選別のクイズとワーク
ワーク: 同じ作業用の資料を十個想定し、「必須」「条件付き」「不要」の三箱に分けます。各資料に、使う手順、更新日、出典、削除した時の影響を書きます。必須箱だけで課題を実行し、不足があれば条件付き箱から一つずつ追加します。
Q1. 上限内なら全資料を入れるのが最善?
そうとは限りません。関連の薄い情報、重複、矛盾、古い状態が重要情報を使いにくくする場合があります。
Q2. プロンプトはコンテキストに含まれない?
含まれます。コンテキスト設計は、指示文に加えて資料、履歴、状態、ツール結果なども対象にします。
Q3. 一度作った文脈は最後まで固定する?
作業の進行に合わせて更新します。完了した情報を圧縮し、新しい観測を加え、古い状態を外します。
LAB WHITEBOARD
自分の言葉で説明してみよう
「指示、知識、状態、例、ツール出力、履歴を選び、圧縮、順序、評価まで含めてコンテキストを設計できるようになる。」を、いまの自分の言葉で一文にしてみてください。途中の説明でも大丈夫です。




